1『江戸のモノづくり』の力強い支援
さて国立科学博物館においては、平成13年度を初年度とする5カ年計画「わが国の科学技術黎明期資料の体系化に関する調査・研究(以下「江戸のモノづくり)」を行っている。
これは明治以降の日本の近代化、工業化の達成には江戸時代の様々な科学技術・文化の発展がその基層にあったという観点で、「江戸のモノづくり」に視点をあてながら、その本質に迫ろうとするもので、そのためモノづくりはもちろん、和算・蘭学・天体をはじめ総合的に江戸時代を検証し、次の時代を創造していく大きなきっかけにしようとする事業である。
国内はもちろん海外まで視野に入れた壮大な事業である。本館にも蘭学、和算などの研究のためこのプロジェクトに参加している先生方が何度も訪れている。そんな折、直接企画された国立科学博物館理工学部の鈴木一義主任研究官が来館された。その際に、図書館が進めようとしている「22世紀を牽引する叡智の杜づくり」の事業について説明したところ深く共鳴され、今後の支援と協力をいただけることになった。これを機に急速に文化財指定に向けた作業を本格化させた。
1月に指定された9件800余点は、この「江戸のモノづくり」に参加され、たびたび来館されていた、京都大学の松田清教授と電気通信大学佐藤賢一講師の両先生の、献身的な協力の賜である。
2 22世紀を牽引する叡智の杜づくり
この事業は、本館の考え方に共鳴された日本を代表するそれぞれの分野の一流の先生方の協力を得ながら、
(1)先人の残した700年にわたる叡智の結晶ともいうべき貴重な資料を、次の世代にしっかりと伝えていく。
(2)その活用を通して、次代を担う人たちに、自信と誇りを持って語れる拠って立つ故郷の歴史や文化を正しく認識してもらう。
(3)これを通して輝く宮城を全国に向けて発信し、日本人の心の再生にも大きな役割を果たしていこうとする事業である。
江戸時代の260余年の世界に例を見ない平和な時代は、日本固有のさまざまな分野の芸術・文化を高め、日本人の心を豊かに育んだのではないだろうか。この長い平和な時代は、結果として学問を普及させ、朝野に多くの知識人を輩出した。この多くの知識人こそ、幕末から維新にかけて、西欧文明を急速に、かつ適切に消化し、日本の近代化を推し進める原動力となったのである。所蔵する貴重書はまさにその黎明の時代を代表するものである。
1月と6月に合わせて20件1800余点について県有形文化財の指定を受けたが、引き続いて文化財の指定へ向けた作業を進めている。富山大学の藤本幸夫教授からは400年以上前の朝鮮の貴重書200余点、慶応大学の友部謙一教授からは『皇国地誌』500余点、名古屋大学の井上進教授からは漢籍の相対評価をいただいた。そして現在も多くの先生方から、各分野の調査研究、評価をいただいている最中である。
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