平成18年度「東北大学附属図書館企画展挨拶」
(東北大学創立100周年・宮城県図書館創立125周年記念事業)
古くから日本人は、木や草を素材とした家に住み、紙一枚の障子で外と接する生活をしてきました。紙一枚で外と仕切られている生活は、自然の移ろいや鳥の声、虫の声にも常に親しみをもち、その一つ一つの仕草にも心躍らせる豊かな感性を養いました。繊細な優しい気持ちで自然のあるがままと接してきました。生きとし生けるものの美しさはかなさ、生きることの貴さをしっかりと心に刻み込んできたのです。日本人は花や鳥や虫の姿や声に、豊かな季節の移ろいを感じ、またそれに心を託した細やかな心を養った民族です。
春告げ鳥の声に、咲きこぼれる花の影。蛍のかそけき光のあとは秋草にすだく虫の音。そして雪明かりと、季節の訪れの一つ一つを情感豊かに受けとめながら過ごしてきたのです。
その豊かな感性は日本の芸術・文化の分野にとどまらず日常生活のいたるところにいきわたり、素晴らしい日本の文化の基層を形成しました。それが大きく華開いたのが江戸時代です。
長い平和な時代の到来は、日本の芸術・文化などさまざまな分野を高度に洗練させ昇華させるとともに、好奇の目は新しい文化をも創造しました。その担い手は市井の人びとでした。彼らの活躍が江戸の人びとの暮らしを楽しく豊かなものに育んだのです。
日本という美しい国と、そこに築かれた歴史や伝統文化は、幕末から明治初期に我が国を訪れた人々に深い感銘を与え、次第に西欧の文化にも少なからぬ影響を及ぼしますが、江戸時代はまさにそのような多くの素晴らしいものを生み出したのです。
自然を大切にしながらさらに素晴らしい文化を創造し昇華させていった江戸の人びとの多彩な姿を紹介するこの企画展が、現代を生きる私たちの生活や暮らし、環境との関わりについて考える上において一つのヒントになれば幸いです。
平成18年11月
宮城県図書館長 伊 達 宗 弘
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