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みちのくの和歌、遥かなりみちのくの指導者、凛たり武将歌人、伊達政宗
 
書評・伊原政江著『猫峠』
2007年7月15日


 


  待侘びてまどろむ程の暁に
    心ありけな初ほととぎす  政宗
 まもなく夏本番を迎えます。過日は『猫峠』をお送り頂き有り難うございます。早く御礼をと思いながら、94歳の母の介護に追われ時間だけが経過してしまいました。
 楽しくもまた忘れていた郷愁を呼び覚まさせられるような気持ちで読ませて頂きました。多感な少女時代の感傷も含めしっかりと心の原風景を描写され、さりげなく様々な想い出をお書きになられており、当時の情景が目に浮かぶようです。
 「こっちの人は疎開で、そっちの人は村の子だろう?」
 「うゝん、2人とも疎開なの」
 大人のさりげない言葉が、いかに子供心を傷つけるものか。激しく頭を振った情景。かたちを変えてもいまでもありそうな話です。
 知子ちゃんにはいろいろな想い出がおありだったのでしょうね。何時までも大切な想い出としてとっておいてください。
 ゆうやけがだんだんうすれ、夕やみの中を年中おなかをすかしながら、とぼとぼと家路をたどる少女。情景が手に取るようにわかります。いまの日本は戦争の悲惨さや平和の尊さを当時を振り返り真剣に考えなければなりませんね。
 アメリカ女性が皮膚をつまんで、上のほうへひっぱりあげたときは魔法使いに見えたのではないですか。(戦後間もない頃、ナイロン製のストッキングを見たことのない時代の想い出)
 12色のチューブの絵具を見たときの感動は計り知れないものがあったでしょうね。
 お父様の時計は大事な大事な想い出の品。残念でしたね。
 再び顔を合わせたモコチャン。成長していましたか。その後が気にかかりますね。
 てっちゃんは、算数が出来ず、国語の本が読めなくても子供らしい誇りと自信があったのですね。当時の男の子には野性的な力づよさがあった。
 「すみちゃん、月だよ」美しい月を見たのですね。本当に美しい月だったでしょうね。
 九百年前の歌人源俊頼は、宮城のシンボルである宮城野原の美しさをとおしてみちのくの奥ゆかしさを絶唱し、
  さまざまに心ぞとまる宮城野の
       花のいろいろ虫のこゑごゑ
という和歌を千載和歌集にとどめています。
 なんと美しくなんと心豊かになる和歌でしょうか。正江さまにおかれても一日一日がこの和歌に詠われたように美しく心豊かに充実したものでありますこと心からお祈り申し上げ、御礼とさせていただきます。
                平成19年7月4日
                    伊  達  宗  弘
伊  原  政  江  様