山寺のかねのひびきも虫の音も
ともに身にしむ秋の夕暮れ 仙台十三代 慶邦
秋も一段と深まってまいりました。
この度は句集『枝垂梅』をお送りくだされ有難うご座います。感じたままを記し御礼といたします。
せせらぎの聞こゆる床屋福寿草
かっては何処にでも見られた光景だったと思いますが、いまは少なくなりました。平穏な歳月の流れのなかに、また訪れた爽やかな春を感じました。しばし静かな時の移ろいを楽しまれたのでしょう。
独楽廻す子らの声とび夕の路地
日本人の心の原風景ともいえる情景を、やさしく詠まれています。路地裏にはまた個々には苦しい生活があるかもしれませんが、路地に出てきて無心に遊んでいる子供達はいまを精一杯生きています。一瞬界隈には明るい花が咲いたようなほっとする優しい気持ちになりました。
賛美歌の流るる墓所に雪間草
墓所を訪れ賛美歌に耳を傾けながら思索に耽って、ふと見た足元には雪間草があった。そうだ、いつまでもくよくよしていてはいけない。雪間草は心の転折を得る大きなきっかけ、こうしていてはいけない。立ち上がっていたときにはしゃんと背筋を伸ばしていたのでしょう。
寒菊を手向け風和ぐ海難碑
海難碑に万感の思いを込めて寒菊を手向けたとき、思いが通じたのでしょうか。冷たい風に晒されていた海難碑にあたる風も一瞬和んだように感じられ、思わず心も和まれたのでしょう。
西瓜食む縁にそろひし膝小僧
暑い日、外では蝉のコーラス。ちょこんと座っている子供達は夢中で西瓜を食べていたのでしょうか。情景がすぐ目に浮かびます。
秋雨に濡るる細身の芭蕉像
雨を避けるため急いで帰路を急ぐ途中、芭蕉像が一人ぽっんと立っている。細身の芭蕉は秋雨に濡れながら、寒さに震えながらじっと立っているのだろうか。可愛そうに思うけれどもどうするすべもない、そんな気持ちを詠まれたのでしょうか。
朝の日に鴨の片寄る城の堀
このような情景に出会ったことがあります。飛び立つ前の静寂なひととき。最も安全な城の堀の片隅に肩を寄せ合うようにしている鴨の一団。今日1日の行動の相談でもしているのでしょうか。同じメンバーでまた無事再会することが出来るように祈りましょう。
齋粥秀衡椀に賜れり
厳粛な気持ちで、齋粥を賜った情景が目に浮かびます。緊張し恐縮しながら拝受したのでしょうか。齋粥を食べた後は心新たに頑張りましょう。
打合へる百の竹刀の寒稽古
ピシッとした寒稽古の緊迫しながらも爽やかな朝の ひとときが伝わってきます。長い1日のはじまりは、 稽古からスタートです。
仏壇に終の句帖や春寒し
さりげなく見た仏壇には、故人の絶筆となる句帖が 供えてあった。故人はこんなにも早く仏壇に供えら れるとは思わなかったろう。決して他人事ではない。心にすきま風が吹き抜ける。気持ちを持ち直し故人 に別れを告げた、その家を後にされたのでしょうか。
春暮るる門に忌中の武家屋敷
空しく過ぎていく春を惜しみ感傷にひたっているとき、道ばたの武家屋敷に忌中の札が下げてあり、気持ちは一層重くなった。この武家屋敷に住んでいた人たちは幾星霜のこのような繰り返しのなかで、歴史を積み重ねてきたのだろう。栄枯盛衰、諸行無常を感じながら、武家屋敷の前を感慨を誘われながら通り過ぎてきたのでしょうか。
俳句の世界をしばし旅させて頂きました。
寒暖の変化の激しい時節柄、ご健勝の御事お祈り申し上げます。
平成十九年十月四日
伊 達 宗 弘
松 岡 き よ 様
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