出羽三山は、県中西部にある月山、湯殿山、羽黒山の3つの霊山をいいます。三山を巡る(お山を駆ける)出羽三山信仰は中世の山岳修験にはじまり、江戸時代に盛んになりました。開山1400年の歴史をもつこの山は、室町時代末期までは羽黒山(観音=過去)、月山(阿弥陀=未来)、葉山(薬師=現在)を三山とし、湯殿山(如来の浄土)を総奥の院としていましたが、葉山が脱落し、今日にいたっているといわれます。
羽黒山は、月山の端山で標高419メートル、平将門創建と伝えられる国宝五重塔、重要文化財の銅鏡・梵鐘など幾多の文化財をいまに伝え、樹齢300〜600年の1・5キロにおよぶ表参道の杉並木が霊場の気配を漂わせています。芭蕉は旅の途次南谷に逗留しました。
涼しさやほの三日月の羽黒山 芭 蕉
ありがたや雪を薫らす南谷 芭 蕉
月山は、標高1984メートル、山頂に月山神社があり、高山植物も豊富でクロユリの群落も見られます。山容が牛の寝た姿に似ているところから臥牛山などと呼ばれています。 雲の峰幾つ崩れて月の山 芭 蕉
月山や辛夷五月の雪に咲く 阿部みどり女
月山の見えて奨めり夕田植 水原秋桜子
出羽三山の奥の院・湯殿山は標高1500メートル、霊湯の湧き出る霊岩をご神体とする神名備(神いますところ)であり、中世以降、農業神として信仰を集め現在にいたっています。日本には20数体のミイラが存在していますが、このうち6体は湯殿山にあります。1000日におよぶ五穀断ちの木食行を極めて即身仏となったもので、江戸初期より真言系の浄土信仰を奉じた湯殿山修験の象徴とされてきました。また、中世以来の歌枕「恋の山」がここであるといわれています。
ちはやぶる神ゐたまひてみ湯の湧く湯殿山を語ることなし 斎藤茂吉
語られぬ湯殿に濡らす袂かな 芭 蕉
梵字川は朝日連峰に源を発し、37キロの奔流となって庄内平野に流れ入る川で、川の名の由来は、弘法大師が湯殿権現に会いに来たとき、川に「ア・ビ・ラ・ウン・ケン」の五梵字が浮き流れるのを発見したことに由来すると伝えられています。大師の建立と伝えられる朝日村にある大日坊・注連寺の両寺は、湯殿山信仰をひろめ即身仏(ミイラ)信仰の二大本山として栄えました。大日坊には生きながら土中に入定した真如海上人、注連寺には鉄門海上人の即身仏があります。
梵字川とどろき落つるまぢかくを目覚めたるごとく下りて行きつ 斎藤茂吉
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