紹介した家持の歌は全て万葉集に収められた歌ですが、万葉集はこの大伴家持が橘諸兄の指図によって取りまとめた歌集といわれています。
収められている歌が4500首、そのうちみちのく歌とはっきり確定されているのが9か所11首で、その中の一首の「すめろきの…」の歌が宮城県に因むもので、あとの8か所は福島の次の歌です。
安積香山(あさかやま)
安積香山影さへ見ゆる山の井の浅き心をわがもはなくに
安達太良山(あだたらやま)
みちのくの安達太良真弓弦箸(まゆみつらは)けて
引かばか人の吾を言なさむ
みちのくの安達太良真弓弾(はじ)きおきて
せらしめ来なば弦はかめかも
安達太良の嶺に伏す鹿猪(しし)の在りつつも
吾は到らむ寝処(ねど)な去りそね
会津磐梯山
会津嶺(ね)の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね
可刀利(いわき市平)
筑紫なるにほふ児ゆゑにみちのくの
可刀利(かとり)をとめの結ひし紐解く
比多潟(いわき市久之浜)
比多潟(ひたがた)の磯の若布(わかめ)の立ち乱え
吾をか待つなも昨日(きそ)も今宵も
二つ沼(双葉郡広野町)
沼二つ通(かよ)は鳥が巣あが心
二行(ふたゆ)くなもとなよ思はりそね
松が浦(相馬市松川浦)
松が浦にさわゑうらだちま人言思ふすなもろわがもほのすも
真野(相馬郡鹿島町)
みちのくの真野の草原(かやはら)遠けども
面影にして見ゆといふものを
美知能久山(宮城県)
すめろきの御代栄えむと東なるみちのく山にくがね花咲く
この福島の8か所と宮城県の1か所だけが万葉時代のみちのくの歌であり、みちのくが歌の世界に大きく登場してくるのは勅撰和歌集に始まる次の時代を待たねばなりませんでしたが、大伴家持もみちのくゆかりの歌人でもあります。
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