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みちのくの和歌、遥かなりみちのくの指導者、凛たり武将歌人、伊達政宗
 
学芸員の力地域を育む―歴史と文化を次代へ― /TD>
2024年11月2日


 



先行き不透明な時代、一番大切なことは次代を担う人たちに自信と誇りを持って語れるふるさとの歴史や文化をしっかりと伝えていくことである。自分の寄って立つ心の原風景があって初めて堂々と生きることが出来、また堂々と世界に伍していくことが出来るのではないだろうか。
 そんな目で見ると市町村の学芸員のおかれた立場はあまりにも悲惨である。処遇を見ても大半は正規の職員ではなく一年更新の非常勤職員である。  「学芸員」という職業名称が新聞、テレビ、雑誌に良く出てくるが、実際の業務内容はどのようなものなのかというと、文化財の保護、資料調査や展示会開催と行ったことは知られている。しかし以上のことを実現するためには、さまざまな作業をしなければならない。例えば、資料の梱包や展示を楽しく興味を持って見てもらうための創意工夫などである。「学芸員」の仕事は間口が広く、奥の深い仕事である。
今後、「学芸員」が歴史や文化と向き合い、転々としない地に着いた仕事を継続できる処遇と職場環境を整える必要がある。  学芸員はそれぞれ博物館等で企画展や調査などを担当し、現地調査や所有者へのアプローチを円滑に行うため、日夜勉学にいそしみ努力を重ね自らの資質を高めている。私は長い間、図書館や大学で仕事をし、それなりに成果を残してきたと自負しているが、それはひとえにそれぞれの博物館等で働く真摯な学芸員の献身的な協力の賜物と考えている。
 複雑多様化する社会の中で、地域社会が生き残っていくためにはその地域ならではのものを発信していく必要がある。特産品や地域の豊かな自然とともに、地域の歴史や文化も大切なキーワードであり、学芸員の果たす役割は極めて大きい。
 地域の文化や文化財を守るためさらに埋もれている資料の調査や分析、その成果の発表の場として博物館等の企画立案などますます学芸員の果たす役割は大きくなっていくものと考えている。先人の果たしてきた偉業を後世に正しく継承していくことも大切である。そのため第一線で働く学芸員の果たす役割、寄せられる期待は大きい。
昭和二五年三月平泉藤原三代の遺体の学術調査が実施されたとき、おびただしい副葬品の中から豆粒ほどの小さな金の鈴を拾い上げ、静かに振って音色を聞いたときの感動を、当時の中尊寺の執事長は、のちにこう記している。「黄金というには余りに可憐な金の小鈴、思わず呼吸をつめた私は、目を閉じ心意を一点に凝らして、静かに静かに振ってみた、小さく、貴く、得も言われぬ神秘の妙音。八百年後の最初の音を聴き得た身の果報、それはまさしく大いなるものの愛情による天来の福音であつた。連日続くあの騒擾に、恐らくすでに爆発寸前の感情であったろう私は、文化を護る道は、ただ〝愛情〟の二字に尽きることを、この瞬間に強く悟りえたのであった」と。
 歴史や文化に対し、尊敬と愛情をもって第一線で働いている学芸員の処遇を再考する時期ではないだろうか。

学芸員の力地域を育む―歴史と文化を次代へ―    (これは2024年9月1日 河北新報掲載持論・時論に掲載されたものです)