トップページへ仙台藩最後のお姫さまみちのくの文学風土
みちのくの和歌、遥かなりみちのくの指導者、凛たり武将歌人、伊達政宗
 
私と若宮丸ー初めて世界一周した水主の物語ー
2024年12月20日
 
 私は、平成14年宮城県図書館長に就任した。当時図書館には『坤輿万国全図』1件が国の重要文化財に指定されているだけだった。図書館には数多くの貴重な資料が所蔵されているが、私はこれらを永久に残すためには、まず文化財の指定が必要と考えた。最初に手にしたのが大槻玄沢著の日本人として初めて世界一周した水主の物語『環海異聞』15冊である。それぞれに綺麗な絵が添えられていた。館長時代約3000点の国・県の指定文化財、5000点の登録文化財指定にこぎつけた。県の上層部の理解もあり京都の国立博物館の修復施設を借用し、国文化財指定を前提に修理する国宝修理装潢師連盟に依頼した。業務の性格上、修復の過程はかなり詳細な画像に収録された。それをもとに図書館ではこれを活用し、『坤輿万国全図』『環海異聞』などの複製を作り、学校等などへの貸し出し、直に手に取り見てもらい日本の文化の素晴らしさを知ってもらおうと考えた。
 また、図書館全職員にプロジェクトチームを組ませ、企画展や主催事業の講座の講師を務めさせた。『22世紀を牽引する叡智の杜づくり』と吊付けたこの事業は国のモデル事業に指定された。  さて昭和25年(1950)3月、平泉藤原三代の遺体の学術調査が実施された。三代秀衡の棺のふたが開かれ、その中にあった豆粒ほどの小さい金の鈴を拾い上げ静かに振って鈴音を聞いたときの感動を当時の中尊寺執事長は、次のように記した。「黄金というには余りに可憐な金の小鈴、思わず呼吸をつめた私は、目を閉じ心意を一点に凝らして、静かに静かに振ってみた。小さく、貴く、得も言われぬ神秘の妙音。八百年後の最初の音を聴き得た身の果報。それはまさしく大いなるものの愛情による天来の福音であった。連日続くあの騒擾に、恐らくすでに爆発寸前の感情にあったろう私は、文化を護る道は、ただ"愛情"の二字に尽きることを、この瞬間に強く悟り得たのであった。
 歴史や文化を正しく継承しこれを次代にしっかりと引き継いで行くのは、何にもまして歴史や文化に対する尊敬と、温かい気持ちがあって初めて可能ではないだろうか。 最近、大島幹雄先生の知己を得て多数の資料のご送付を受けた。会報「ナジェージダ」、「石巻学」、冊子「石巻 若宮丸漂流物語」。石巻の皆様の気魄と探究心の旺盛さには改めて驚いた。石巻ならではの重厚な歴史の積み重ねのなせる技だろう。  いま次代を生きる人たちにとって何よりも必要なのは、素晴らしい故郷や日本の歴史や文化をしっかりと伝えることではないでしょうか。心の原風景がはじめて自信と誇りを持って生きることができ、また堂々と世界に伊して行くことができるのではないだろうか。会報50周年を大きな節目に、さらなる飛翔をされること期待いたしている。 仙台藩志会会長、仙台大学客員教授  伊達宗弘